マンションを売却して住み替える場合、主に「マンションからマンション」と「マンションから戸建て」への住み替えパターンがあります。

マンションからマンションへの住み替えなら、マンション生活の経験者が物件を選ぶため、次の物件選びに失敗しにくいです。
一方で、マンションから戸建てへの住み替えであれば、物件選びは少し苦労するかもしれませんが、マンションのデメリットを解消することができます。
どちらも一長一短がありますので、後悔しないようにするには、メリットとデメリットをしっかり知っておくことが必要です。
また、スムーズに住み替えを進めるためには、始める前に押さえておくと良い知識もあります。

そこでこの記事では、これからマンションを売却して住み替えようと考えている方に向けて、知っておくべき必要最小限の知識について、わかりやすく解説していきます。

1.住み替えの流れと特徴

住み替えには、売却を先に行う「売り先行」購入を先に行う「買い先行」の2種類があります。
それぞれの流れと特徴について解説します。

1-1.売り先行の流れ

売り先行の流れは下図のようになります。

売り先行の流れ

売り先行の流れは、売却物件と購入物件の引渡日を同日またはできるだけ近い日に調整することがポイントです。
引渡日をほぼ同日とするために、売り先行では実質的に売却と購入を同時並行で進めることになります。
スケジュール調整が難しいのは、購入よりも売却です
購入は自分の意思でタイミングを決めることができますが、売却は買主が現れないと決まらないため、売却の方がスケジュール調整は難しくなります。
したがって、売り先行で失敗しないためには、マンション売却に慣れた不動産会社に売却を依頼し、極力予定通りに売却することがコツです。

1-2.売り先行のメリットとデメリット


メリット  

・売却代金の入金後に購入ができるため、資金繰りが楽になる。

・物件を無駄に保有することがなく維持費の負担が軽い。

デメリット  

・スケジュール調整が難しい。

・住みながら売却することになり売りにくい。


売り先行のメリットとデメリットは以下の通りです。


売り先行は資金繰りが楽になることから、住宅ローン残債が残っている人向けになります。
 

ただし、スケジュール調整が難しく、購入が遅れると、仮住まいが発生します。
また、購入が早まると資金繰りに狂いが生じます。
売り先行は、売却のスケジュール調整が最大のポイントです。

また、住みながら売却することになるため、売主は内覧の対応が必要となります。
内覧とは購入希望者に家の中を見せる行為です。
住みながら家を見せるため、家の中を片付けておく必要があります。

1-3.買い先行

買い先行の流れは下図のようになります。

買い先行

買い先行は、購入と売却を分けて行うことができ、スケジュール調整は行いやすいです。
ただし、売却物件に住宅ローンが残っている人が買い先行を行うと、購入物件との二重ローンが発生するため、経済的な負担が重くなります。

1-4.買い先行のメリットとデメリット

買い先行のメリットとデメリットは以下の通りです。


メリット  

・スケジュール調整がしやすい。

・空き家で売ることができるため売りやすい。

デメリット  

・住宅ローンが完済している等の資金的な余裕がないとやりにくい。

・売却が長引くと売却物件の維持費の負担が重くなる。


買い先行は、基本的には住宅ローンが完済している人向けです。 

住宅ローンが完済していないと、売却物件と購入物件で二重ローンが発生することになります。

空き家なので売りやすいですが、売却が長引くと売却物件の固定資産税等の維持費が無駄に発生します。
よって、買い先行でも売却はマンション売却に慣れた不動産会社に依頼し、素早く売ることがコツとなります。

2.マンションからマンションへの住み替え

この章では、「マンションからマンションへの住み替え」について、メリット・デメリット・注意点を解説します。

2-1.マンションへ住み替えるメリット

マンションからマンションへの住み替えのメリットには、以下のものがあります。

【マンションへの住み替えメリット】

  • マンション生活の経験があるので物件選びに失敗しにくい
  • 以前のマンションのデメリットを改善できる
  • 慣れた生活スタイルを維持できる
  • 家の中が全体的に暖かい
  • フラットな空間で生活できる
  • 顔見知りを作りやすい
  • 共用部の維持または修繕を管理組合に任せることができる
  • 資産価値のある物件を購入しやすい

マンションからマンションへの住み替えは、既にマンション生活の経験者が新しいマンションを選ぶため、「物件選びに失敗しにくい」という点が最大のメリットです。

はじめてマンションを購入する人よりも確固たる「目利き力」がありますので、今のマンションの良い点と悪い点を整理し、より良いマンションを購入するようにしましょう。

2-2.マンションへ住み替えるデメリット

マンションからマンションへの住み替えのデメリットは、以下のものがあります。

  • マンション特有のデメリットは解消できない
  • リバースモーゲージ(年金型の融資を受けるサービスのこと)を利用できる物件が少ない

同じマンションへの住み替えですので、「マンション特有のデメリットは解消できない」という点はデメリットです。
例えば、管理費および修繕積立金が発生する、収納量が少ない、管理組合の理事が回ってくる等のマンションならではのデメリットは引き続き抱えることになります。

3.マンションから戸建てへの住み替え

この章では、マンションから戸建てへの住み替えについて、メリット・デメリット・注意点を解説します。

3-1.戸建てへ住み替えるメリット

マンションから戸建てへの住み替えのメリットは、以下のものがあります。

  • 管理費および修繕積立金、駐車場代がなくなる
  • 収納量を増やせる
  • 部屋と駐車場が近くなる
  • 将来建て替えることができる

マンションから戸建てへ住み替えると、「管理費および修繕積立金、駐車場代がなくなる」、「収納量を増やせる」、「将来建て替えることができる」等のメリットがあり、マンション特有のデメリットを解消することができます。

3-2.戸建てへ住み替えるデメリット

マンションから戸建てへの住み替えのデメリットは、以下のものがあります。

  • セキュリティ面が悪くなる
  • ゴミステーションの管理が煩わしい
  • 高齢になると住みにくい

マンションから戸建てへ住み替える場合、「セキュリティ面が悪くなる」、「ゴミステーションの管理が煩わしい」、「高齢になると住みにくい」等の戸建て特有のデメリットが生じます。

4.ローンが完済していない場合どうなるか

売却物件のローンが完済していない場合、ローン残債は売却代金によって一括返済するのが基本です。
一括返済することに関しては、繰上返済手数料を払えば銀行は特に問題なく了承してくれます。

ローンが完済していない状態で買い先行を選択してしまうと、売却物件と購入物件で二重ローンが発生してしまいますので、ローンが完済していない場合は「売り先行」を選択するのが基本です。

ただし、売り先行では、売却期間が長引くことや、購入が早まることで売却と購入の順番が入れ替わってしまうことがあります。

そのような場合に備えて、住み替えでは「つなぎ融資」というものがあります。
つなぎ融資とは、購入物件の代金支払いが売却物件の代金入金よりも先になってしまったときに、一時的な資金不足を解消するためのローンです。

ローンが完済していない場合どうなるか つなぎ融資

つなぎ融資は、住宅ローンのように毎月一定額の返済が生じるようなローンではなく、売却が決まった段階で一括返済するローンとなります。
一時的に不足する資金を手当てするだけのものであり、つなぎ融資を借りたからといって毎月のローンの支払いが二重になるものではありません。

住み替えではつなぎ融資は非常に便利ですが、つなぎ融資は不動産会社の一つのサービスであるという点が注意点です。
つまり、つなぎ融資サービスを行っていない不動産会社に売却を依頼しても、後からつなぎ融資を利用することは基本的にできないということになります。

つなぎ融資の利用可能性のある人は、最初からつなぎ融資サービスを提供している不動産会社を選ぶことが必要です。

一方で、ローンが完済していない物件では、売却物件がオーバーローンとなることがあります。
オーバーローンとは、住宅ローン残債が売却額を上回る状態のことです。
オーバーローンの場合でも、例えば貯金等を売却代金に加えてローンを一括返済することができれば普通に売却することは可能です。

貯金を加えても返済できないような場合には、「住み替えローン」を使うと普通に売却することができます。

住み替えローンとは、次に購入する物件の住宅ローンに売却物件で返済しきれなかったローン残債を上乗せして借りることができるローンのことです。

ローンが完済していない場合どうなるか 住み替えローン

住み替えローンも非常に便利ではありますが、住み替えローンは融資審査が厳しく、誰でも利用できるわけではないという点が注意点となります。

住み替えローンは、最初から物件価値以上の融資を行うことになるため、銀行にとってはリスクのある貸付です。
よって、大企業勤務の人や公務員、医者等の条件の良い人が優先的に借りることができるローンとなっています。


5.住み替えで失敗しないための税金の基礎知識

住み替えでは、売却物件で売却益または売却損が出た場合に、それぞれ税金の特例に関する注意点があります。

不動産を売却したときは、以下の計算式で求められる譲渡所得によって税金の有無が決まります。

不動産の売却で生じる税金は所得税および住民税、復興特別所得税です。

譲渡所得 = 譲渡価額※1 - 取得費※2 - 譲渡費用※3

※1譲渡価額とは売却価額です。
※2取得費とは、土地については購入額、建物については購入額から減価償却費を控除した価額になります。
※3譲渡費用は、仲介手数料や印紙税、測量費など、売却に要した費用のことを指します。

譲渡所得がプラスで売却益(譲渡益)が生じた場合は税金が発生します。
それに対して、譲渡所得がマイナスで売却損(譲渡損失)が生じた場合には税金は発生しないことになります。

6-1.売却益が出た場合の注意点

マイホームであるマンションは居住用財産と呼ばれます。
居住用財産を売却した場合、売却益が生じてしまうケースでは、なるべく税金が重くならないように政策的な配慮から以下の3つの節税特例が存在します。

【売却益が出たときの節税特例】

  • 3,000万円特別控除
  • 所有期間10年超の居住用財産を譲渡した場合の軽減税率の特例
  • 特定の居住用財産の買換え特例

一定の要件を満たす居住用財産では上記の節税特例を利用でき、売却時に発生する所得税および住民税、復興特別所得税を節税することができます。

一方で、住宅を購入した場合、購入物件で住宅ローン控除を利用すると所得税および住民税、復興特別所得税を節税することが可能です。

住宅ローン控除とは返済期間が10年以上のローンを組んで住宅を購入した際、自分がその住宅に住むことになった年から一定期間に渡り、所定の額が所得税から控除できる制度のことを指します。

しかしながら、住宅ローン控除は、購入物件に入居した年の他、その前年または前々年あるいはその翌年または翌々年に、売却物件の節税特例を使っている場合には利用できないというルールがあります。

よって、売却物件の節税特例と購入物件の住宅ローン控除は同時に利用することができないのです。

売却益が出たときの住み替えでは、売却物件の節税特例か、購入物件の住宅ローンか、いずれか節税効果の大きい方を選択して利用することになります。

6-2.売却損が出た場合の注意点

売却物件で売却損が出た場合には、一定の要件を満たすと居住用財産の買換えに係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例(以下、「譲渡損失の買換え特例」と略)を利用できます。

譲渡損失の買換え特例とは、損益通算によって所得税の還付を受けることができる特例です。
損益通算とは、プラスの所得とマイナスの所得を合算することを指します。

例えば800万円の給与所得がある人が▲1,000万円の売却損を出した場合、その年の所得が▲200万円とすることができ、会社側で源泉徴収していた税金を取り戻すことができるというのが譲渡損失の買換え特例です。

譲渡損失の買換え特例では、購入物件で「返済期間10年以上のローンを組むこと」が要件となっており、この10年以上のローンの要件を見落とす人が多いので注意が必要となります。

その他、譲渡損失の買換え特例を利用するには細かい要件が存在します。
詳細については、以下の国税庁のHPをご参考ください。

まとめ

いかがでしたか。
マンションの住み替えについて解説してきました。

住み替えの流れには売り先行と買い先行があります。
売り先行の方が経済的な負担が軽いため、一般的には売り先行を選択する人が多いです。

売却物件で残っているローンは、売却代金で返済することが基本です。
売却では主に仲介手数料等が発生し、購入では購入する物件の種類によって諸費用の購入価格に対する率が多少変わるのが特徴となります。

住み替えで売却益が出たときの注意点は、売却の3,000万円特別控除等と購入の住宅ローン控除は同時併用できない点です。
また、売却損が出たときは、譲渡損失の買換え特例を利用する場合、購入物件で10年以上の住宅ローンを組むことが注意点となります。